46回日本臨床細胞学会スライドセミナー

症例6解説

東北厚生年金病院病理部 村上一宏

 

症例は50才代の男性。健康診断で右肺下葉に径1cmの境界明瞭な腫瘤影が発見され(Photo-1)、右肺下葉部分切除術が施行された。切除組織内の腫瘤は白色調、やや固い腫瘍であった(Photo-2)。その捺印細胞診標本において、腫瘍細胞は比較的クロマチンが微細な円形核を有し、シート状(Photo-3)あるいは軽度重積性に観察される(Photo-4)。多くの細胞では細胞質が不明瞭であるが、一部に泡沫状の豊かな細胞質を有した細胞も見いだされる(Photo-5)。また、淡明な細胞質を有した細胞が不整配列を示す集塊も認められる(Photo-6)。これらの腫瘍細胞の核異型は軽度で、悪性腫瘍は考えにくい。細胞配列からは上皮性腫瘍を推定したい細胞所見である。腫瘍は、淡明な細胞質を有した紡錘形ないし立方状の細胞が密に配列した「明細胞腫瘍 clear cell tumor(Photo-7)であった。設問には肺癌や悪性リンパ腫を加えたが、これらとの鑑別は容易と考えられる。良性の肺腫瘍として、カルチノイド腫瘍、硬化性血管腫、明細胞腫瘍をあげたが、これらとの鑑別は難しいようであった。明細胞腫は肺の稀な良性腫瘍であるが、ときに腎細胞癌の肺転移などとの鑑別が問題となる。明細胞腫瘍の起源はPEC (perivascular epithelioid cell) と考えられ、PEComaの範疇に含まれる。PEComaの代表的疾患には腎臓に好発する血管筋脂肪腫angiomyolipomaが含まれ、さらに肺では非常に稀な疾患ではあるがリンパ脈管筋腫症pulmonary lymphangioleiomyomatosis (LAM) があげられる。実際、LAM においてみられる異常細胞 (Photo 8) と明細胞腫瘍の細胞は類似した形態を示している。今回のスライドセミナーでは、perivascular epithelioid cell に由来するとされる肺の稀な良性腫瘍である「明細胞腫瘍」について、細胞像、組織像、臨床像を呈示、解説した。