46回日本臨床細胞学会総会(春期大会)スライドセミナー

症例4解説

四国がんセンター臨床検査科 西村理恵子

問題

1)  Ductal hyperplasia

2)  Intraductal papilloma

3)  Ductal adenoma

4)  Non-invasive ductal carcinoma

5)  Invasive ductal carcinoma

 

本例呈示の目的

良悪判定に迷った場合の細胞診の報告

1.細胞像のみで良悪判定を下すのは危険である。

2.臨床医に連絡をとって相談する。

3.臨床医に連絡をとれない場合は、“良悪判定困難”と報告して、考えられる病変を記載するのが安全である。

 

症例

患者:66歳、女性。

主訴:右乳房腫瘤自覚。

現病歴:右乳房腫瘤を自覚し、他院を受診。穿刺吸引細胞診にて悪性と判定され、手術をすすめられた。Second opinion目的で当院を受診。腫瘤自覚2か月後、乳房円状部分切除術が施行された。

血液検査所見:末梢血液像・血清生化学検査・腫瘍マーカー(CEA, CA19-9)に異常なし。

触診所見:右乳房CA領域。大きさ1.8X1.5cm。境界不明瞭な不整型硬結。乳頭腫瘍間距離2cm。皮膚陥凹・皮膚固定・胸壁固定(-)。触診上は悪性が疑われる

マンモグラフィー:所見なし。

エコー:癌疑い。

 

術前穿刺吸引細胞像 (Photo-1, 2, 3, 4)

・背景に壊死はない (Photo-1)

・重積性を示す上皮細胞集塊が多数みられる (Photo-1)

・小型上皮細胞集塊や孤立細胞もある (Photo-1, 4)

・細胞集塊に線維性の芯はない(Photo-2)

・細胞集塊に腺腔構造ははっきりしない (Photo-2)

・集塊内に筋上皮細胞は確認できない (Photo-3)

・核異型は軽度 (Photo-3)

乳管上皮の増殖性あるいは腫瘍性病変であり、鑑別としてductal hyperplasiaatypical ductal hyperplasianon-invasive ductal carcinomainvasive ductal carcinomaがあげられる。文献によると、atypical ductal hyperplasianon-invasive ductal carcinomainvasive ductal carcinomaは症例によっては鑑別できるという記載もある(Table-1)。そこで、本例の細胞像をその記載に当てはめてみると、細胞集塊の大きさはばらばらで、細胞の配列も不規則で、筋上皮細胞ははっきりしないため、invasive ductal carcinomaをより思わせる像である。また、背景壊死像がみられないことが、非浸潤性病変を示唆している。しかし、invasive ductal carcinomaであっても背景に壊死像がみられないことはしばしばあり、乳頭状構造を呈さない非浸潤性病変では採取される上皮細胞の量が少ないことが多いため、投票結果でも示されたように、通常はまずinvasive ductal carcinomaを考えるのではないかと思われる。

組織像と比較して細胞像を振り返ると、本例の細胞像は全体としてはinvasive ductal carcinomaを思わせるにもかかわらず、細胞異型が軽度であることに注意する必要がある。以上から、このような細胞像をみた場合は、細胞像のみで良悪判定を下すのは危険と思われる。細胞診にたずさわる立場としては、まず臨床医に連絡をとって相談するべきである。臨床医に連絡をとれない状況の場合は、“良悪判定困難”と報告して、考えられる病変を記載するのが安全と考える。

 

乳房円状部分切除検体組織像(Photo-5, 6, 7)

術前診断としてnon-invasive ductal carcinomaが最も考えられたため、乳房円状部分切除が行われた。

穿刺部と思われる瘢痕部周囲の乳管上皮に増殖性病変がみられ、穿刺吸引細胞診では類似した病変が採取されたものと思われる (Photo-5)。乳管内に上皮の増殖性病変がみられ、管腔様構造がみられるが、その形は不均一で、分布は辺縁によっている。乳管内癌ではなく、florid type ductal hyperplasiaと診断した (Photo-6)。個々の細胞の異型性は乏しく、比較的均一で、術前の穿刺吸引細胞診で採取された細胞に類似している(Photo-7)。最終的には中等度異型を示すflorid typehyperplasiaと診断した。

 

まとめ

1.上皮の増殖がめだつ乳腺 ductal hyperplasia の穿刺吸引細胞像を呈示した。

2.乳腺穿刺吸引細胞診検体で、多量の上皮成分が採取され、それらの形態が一様にみえる場合でも悪性ではないことがある。

 

 

 

Table-1  Cytological Findings of Preinvasive Neoplasia of the Breast

Feature

Atypical Ductal Hyperplasia

Ductal Carcinoma In Situ

Invasive Ductal Carcinoma

Cell clusters

Yes

Yes

Yes

  Size

Variable

Variable

Variable

  Uniformity

Yes

Yes

No

  Orderly

Yes

Yes

No

Cell pleomorphism

Yes

Yes

Yes

Single cells with groups

Some

Some

Some

Myoepithelial cells

Prominent

Rare

Rare

Necrotic background

No

Rare

Yes

Wilkinson EJ et al. J Cell Biochem 17: 81-88, 1993