第46回日本臨床細胞学会スライドセミナー
症例3解説
(医)博愛会相良病院 大井恭代
Ductal adenoma は 1984年 Azzopardi らによって画像的組織学的に悪性の病変と間違われやすい病変の一群として提唱された。基本的には硬化性変化を伴う乳管内乳頭腫の中で特に腺腫様の所見の強いものに対して用いられる。近年、画像技術の進歩により発見される機会が増えたが、臨床的、病理学的に overdiagnosis されやすく、十分な注意が必要である。組織学的にはよく境界され、膨張性の発育を示すが、分葉状や多結節癒合状の場合もある。乳管内病変をうかがわせる厚い線維性被膜と辺縁の裂隙状の間隙は特徴とされるが、時に偽浸潤の像を呈し、病理学的にも画像的にも悪性と誤る可能性がある。内部は二相性の保たれた腺管構造の密な増生からなり、腺管は辺縁で大きい傾向を示し、様々な程度の線維化を伴う(photo 5)。しばしば核異型を示すアポクリン化生細胞が混在し(photo 6)、穿刺吸引細胞診で悪性と誤りやすいひとつの要因となっている。また、微細石灰化を伴う点も画像上悪性を疑われやすい。
本例は超音波で境界明瞭であったが内部エコー不均一で(photo 1)、乳管内進展も見られ、非浸潤性乳管癌が疑われた。穿刺吸引細胞診ではシート状、小集塊状に多数の細胞が採取されており(photo 2)、二相性を有し、基本的には良性で大小の腺管の増生が示唆された。ごく一部に大型異型核を有する細胞境界不明瞭なアポクリン化生細胞を認めるが、良性の腺上皮と移行を示し(photo 3)、同様のアポクリン化生細胞と腺上皮の移行像が散見された(photo 4)。ductal adenoma を overdiagnosis しないためには核異型を示すアポクリン化生細胞が混在することがあることを知っておくこと、局所的な核異型にとらわれず多彩な全体像を把握すること、画像と細胞像の整合性を検討すること、などが必要と考えられた。