第46回日本臨床細胞学会スライドセミナー
症例2解説
Early de
novo ovarian carcinoma
熊本大学大学院医学薬学研究部
総合医薬科学部門 生体機能病態学講座
婦人科学分野
片渕秀隆
症例は55歳の4回経妊1回経産女性である。子宮がん健診で行われた子宮腟部の細胞診にて腺癌が得られ、その後に行った子宮内膜細胞診でも同じ結果であった。コルポスコピーならびに子宮鏡検査では異常はなく、消化器系を含めた精査でも異常は確認されなかった。
子宮内膜細胞診では、正常の子宮内膜細胞が間質細胞を伴って多数みられ、背景はきれいで壊死は認められない中、腫瘍細胞が小型の球状の集塊を形成している(Photo-1)。正常の子宮内膜細胞と比較すると、腫瘍細胞は大きく、細胞の重積性はあるが、その程度は強くない(Photo-2)。腫瘍細胞のN/C比は高く、核の大小不同が著しく、クロマチンは凝集し不均等な分布を示し、核小体も明瞭である。変性空胞を伴った腫瘍細胞もみられる(Photo-3)。
一連の検査で捉えられない子宮頸部、卵巣、卵管、あるいは腹膜由来の微小な悪性腫瘍の存在を考え、患者への十分な説明の上、開腹術を施行した。その結果、骨盤内臓器に肉眼的な異常はみられなかった。また、腹水も認められなかったが、腹腔内洗浄細胞診では腺癌の集塊が確認された。
摘出標本の組織学的検索の結果、右側卵巣の2 mm間隔の細切標本の連続する4切片に正常の卵巣表層上皮から腺癌への移行(Photo 4)と深さ0.5mmの間質浸潤が確認された(Photo-5)。以上の所見から、卵巣癌Ic(1)期、中分化型の漿液性腺癌の診断に至った1)。本症例はBell and Scullyが報告したearly de novo ovarian carcinoma2)である。
子宮内膜細胞診に出現するearly de novo ovarian
carcinomaを含めた卵巣癌の所見は、
1. 背景がきれいで、出血や壊死物質を認めない。
2. 正常子宮内膜細胞が多数出現する。
3. 腫瘍細胞の集塊は小型で、辺縁が平滑である。
4. 腫瘍細胞の核は子宮内膜癌に比して一般に大型である。
に要約される。
文 献
1) Okamura H, Katabuchi H.
Pathophysiological dynamics of human ovarian surface epithelial cells in
epithelial ovarian carcinogenesis. Int Rev Cytol 2005; 242: 1-54.
2) Bell
DA, Scully RE. Early de novo ovarian
carcinoma. A study of fourteen cases. Cancer 1994; 73: 1859-1864.