尿細胞診の検体処理方法について


国立善通寺病院 臨床研究部病理 1) 
高知赤十字病院 検査部病理 2)

    ○大崎博之 1) ,中村宗夫 1) ,弘内 岳 2) ,小原昌彦2),
      水野圭子 2) ,萩野善久 2) ,山崎義一 2)

【はじめに】

 我々は,どこの施設でも実施可能で,かつ良好な標本を作製できる尿細胞診の検体処理方法について検討を行ったので報告する.

【対象】

 2002 年 3 月〜 2002 年 8 月までに,国立善通寺病院と高知赤十字病院で組織学的検索が行われ,尿細胞診にて癌細胞の出現を確認できた下部尿路癌 17 例(膀胱癌 15 例,尿管癌 1 例,腎盂癌 1 例)である.全例において組織型は尿路上皮癌(UC)で,検体は自然尿を用いた.

【方法】

 以下に示す各種の検体処理方法ごとに,出現細胞数と細胞形態について検討を行った.いずれの方法も検体量は 10 ml,遠心沈殿は 3200 回転( 1800 G )で 3 分間,上清の除去はアスピレート法で行った.また,高度血尿の場合には,あらかじめ遠心沈殿して,有核細胞層を採取し検体とした.

・直接湿潤法:沈渣→すり合わせ塗沫→ 95 %エタノール固定

・スプレー法:沈渣→すり合わせ塗沫→スプレー固定→乾燥

・ 2 回遠沈変法:沈渣に第 1 固定液(ポストサンプラー)を 5〜10 ml 加え 30 分放置→再遠沈→沈渣に第 2 固定液( 95 %エタノールに 5 %の割合でポリエチレングリコールを加えたもの)を 2〜3 滴混和→すり合わせ塗沫 →乾燥→ 95 %エタノール固定

【結果】

(出現細胞数)

Fig.1 Fig.2 Fig.3
直接湿潤法
スプレー法
2回遠沈変法
 
 
  
・出現細胞数については「 2 回遠沈変法≧スプレー法≫直接湿潤法」の順に良好であった.

・ 2 回遠沈変法とスプレー法では 17 例全てにおいて癌細胞が出現していたが,直接湿潤法では 17 例中 4 例( 24 % )で癌細胞が出現していなかった.

・直接湿潤法で癌細胞が出現しなかった 4 例の内訳は 膀胱癌 3 例( CIS 2 例,UC G2 pTa 1 例 )と尿管癌 1 例( UC G2 )であった.

・ 直接湿潤法と 2 回遠沈変法では均一な細胞出現であったが,スプレー法では出現ムラを認めた.

(細胞形態)
Fig.21 Fig.22 Fig.23
直接湿潤法
スプレー法
2回遠沈変法
  
   
   
直接湿潤法
スプレー法
2回遠沈変法
        
・細胞形態については「直接湿潤法 2 回遠沈変法>スプレー法」の順に良好であった.

・ 2 回遠沈変法と直接湿潤法はほぼ同様の細胞形態を呈したが, 2 回遠沈変法は直接湿潤法に比べ軽度の細胞平面化と細胞質辺縁の濃染が見られた.

・スプレー法では細胞の平面化と核濃染が強調され,しばしば固定ムラを認めた.

Fig.1 Fig.2 Fig.3
スプレー法
固定充分
固定不充分
 
 
  

【まとめ】

 検体処理方法ごとに出現細胞数と細胞形態が異なることが示され,それぞれに以下のような長所と短所があった.

・直接湿潤法: (長所)操作が簡便,細胞形態良好 (短所)細胞剥離著明
・スプレー法: (長所)操作が簡便,集細胞率が高い (短所)出現ムラ,固定ムラ
・ 2 回遠沈変法: (長所)集細胞率が高い,細胞形態良好 (短所)操作が煩雑

 特に直接湿潤法では,早期癌や上部尿路に発生した UC など,尿中に剥離する腫瘍細胞の絶対数が少ない場合,偽陰性となる可能性があるため,直接湿潤法単独での施行は避けるべきである.

 尿細胞診の検体処理方法は, 2 回遠沈変法かスプレー法のいずれかを,施設や検体の状態にあわせて使い分けることが,現時点では最良の方法と考える.