泌尿器細胞診における各種集細胞法、処理法の有用性に関する検討


筑波大学附属病院病理部

深沢政勝

I はじめに

 細胞診標本作製の標準化は、精度管理の観点からも極めて重要である。泌尿器細胞診では、いかに多くの細胞を集めて、いかに判定しやすい標本を作るかが正確で質の高い診断を行う上で重要となる。しかし、その検体処理方法については統一したものはなく、各施設で様々な方法で行われているのが現状である。そこで今回は、どのような集細胞法、処理方法が最も有用かその手掛かりを得ることを目的に、擦り合わせ法、フィルター法、Thinlayer 法について比較検討を行った。

図1
(図1)

II 対象および方法

対象とした尿細胞診検体202例について、擦り合わせ法、フィルター法、Thinlayer 法にて標本を作製した(図1)。それぞれの方法について、簡便性、集細胞率(良性)、集細胞率(悪性)、染色性、標本の見易さ、経済性について比較検討した。

III 結果

簡便性の検討では、フィルター法は遠心操作がないため最も簡便であったのに対して、Thinlayer 法では、やや煩雑で処理に長時間を要した。尚、固定までに要するおおよその時間は、擦り合わせ法10分、フィルター法 3 分、Thinlayer 法 50 分であった。

良性例における集細胞率はThinlayer 法が最も優れていたが( 図2〜5)、炎症細胞が多い症例では、逆にフィルター法が有効であった( 図6〜9)。

図2 図3
図2
図3
図4 図5
図4
図5
図6
図7
図6
図7
図8
図9
図8
図9
悪性細胞の集細胞率については、有意な差は認められなかった( 図10)。

染色性については、核クロマチンの所見などいずれの方法でも良好な結果が得られた(図11)。

図10 図11
図10
図11
標本の見易さでは、フィルター法の一部の症例で孔に細胞がはまり込み、鏡検しづらい症例が存在した。また孔そのものが若干鏡検の妨げとなったが(図12)、フィルター法では集団として出現する傾向があり、実際の診断には大きな影響はなかった(図13)。これに対し、Thinlayer 法では鏡検範囲も少なく最も見易い標本を作製することが可能であった。
図12 図13
図12
図13
経済性については、擦り合わせ法が最も安価で良好であったのに対し、Thinlayer 法で約 1.5 倍、フィルター法では約 2.5 倍の標本作成費用が必要であった。以上の検討結果をまとめたものを表に示す。
表
IV まとめ

 いずれの集細胞法も一長一短があるため、いくつかの方法を併用することが望ましいと考えられた。しかしながら、具体的な運用方法については、各施設の実情等に応じて今後もさらに検討していく必要があると思われた。ただし、フィルター法、Thinlayer 法などは、標本作製者の経験や技術による差が少なく、またスクリーニングが短時間で済むなどの利点もあり、今後さらに発展していくことが予想された。