講義

呼吸器における異型上皮と上皮内癌


〜理解すべき細胞と鑑別を必要とする病変〜


 (画像は拡大しません) 

日本の肺癌取り扱い規約(日本肺癌学会。臨床・病理 肺癌取り扱い規約、金原出版、1999,東京)および頭頚部癌取り扱い規約(日本頭頸部腫瘍学会。頭頸部癌取り扱い規約、金原出版、2001,東京)には異形成、上皮内癌の記載がない。一方上記のWHOの規約には記載された。細胞診上注目すべき項目をTable 1に整理した。

扁平上皮がmaturationするということはIntermediate zoneを形成し(細胞質の量が著増し細胞が大きくなる)次いで表層では細胞が扁平化し(Flattening)、Keratosis, Parakeratosisに陥ることを意味している。

従ってIntermediate zoneを形成するMild~moderate dysplasiaの表層由来の細胞は大型なSuperficial~intermediate typeの細胞となり、Intermediate zoneを形成しないSevere dysplasia や In situ由来の細胞はParabasal ~ basal typeの小型な細胞となる。

WHOの分類には異形成の写真が載っていない。しかし呼吸器の異形成は子宮膣部の異形成に類似すると記載されている。スライドはWHO子宮膣部の分類に記載されている軽度異形成である。Intermediate zoneの形成と、Superficial flatteningが明瞭である。

スライドはWHOの呼吸器の分類に掲載競れているSCC In Situのスライドである。Intermediate zone の形成は無く、表層の細胞も小型である。

スライドはWHOの高分化扁平上皮癌のスライドである。Intermediate zoneの形成があり、錯角化に陥った細胞は扁平で層状に重積している。

日本の肺癌取り扱い規約に記載された高分化扁平上皮癌のスライドである。Intermediate zoneの形成が明瞭に観察できる。

日本の肺癌取り扱い規約に載せられている中等度分化扁平上皮癌のスライドである。Intermediate zone の形成は不良で、錯角化に陥った細胞も小型である。

異形成同様に扁平上皮癌でも高分化扁平上皮癌ではIntermediate zoneの形成があるため表層から剥離する細胞はsuperficial~intermediate typeの大型な細胞であり、Intermediate zoneの形成を伴わない中等度分化〜低分化扁平上皮癌由来の細胞はBasal~parabasal typeの小型な細胞となる。

以上のまとめである。Intermediate zoneの形成を伴う病変の表層に由来する細胞は70〜80μの大型な細胞であり、形成を伴わない病変の表層に由来する細胞は30~40μの小型な細胞となる。

スライド左に示す小型で異型性の軽い癌細胞は高分化扁平上皮癌由来と思いこみがちである。しかしこのような小型な細胞はスライド右の様なIntermediate zoneの形成を伴わない病変に由来した細胞であり、低分化扁平上皮癌由来の細胞であることを理解する必要がある。

大型な細胞の鑑別(1)は一部検討症例で述べるが、今後の課題である。小型な細胞の鑑別(2)について以下に述べる。

スライドに示すように扁平上皮は錯角化に陥ると、1)核は小さくなり、2)核小体等の核内構造は失われ、3)クロマチンの染色性も低下し異型性が軽く見えるようになる。従って演者は錯角化に陥った細胞はそれと認識し、錯角化に陥った細胞を診断する理論で判定することが望ましいと考えた。

上皮内癌と浸潤癌で錯角化に陥った細胞の角面積の平均値をプロットしたグラフである。NK,NP:Non-keratotic , non-pyknotic cell, K,NP: keratotic, non-Pyknotic cell, K,P: keratotic pyknotic cell. 錯角化により細胞のサイズが著明に縮小していることが解る。演者は偏光レンズを使い、錯角化に陥った細胞は副屈折を示すことを指標とし錯角化に陥った細胞を同定している。以下数枚に副屈折のの所見を示す。

左:胞体がOGに染まる癌細胞(P,Kcell)、右:副屈折

左:胞体がOGに染まる癌細胞(K,NPCell), 右;副屈折

左:OGとライトグリ−ンの癌細胞(K,NP cell)、右:副屈折

左:胞体がライトグリ−ンのK,Pcell(癌細胞), 右:副屈折

左:胞体がライトグリ−ンの癌細胞(k,NPcell), 右:副屈折

上皮内癌と浸潤癌各1例づつの錯角化に陥った細胞の各面積の測定値。K,NPCellにも、K.Pcellにも核に大小不同がある。細胞の大きさにも大小不同がある。これは錯角化に陥る前の癌細胞とその核の大小不同を反映している。


光軸が合っていない状態

光軸が合った状態

光点の周辺を明瞭にした状態

LBDフィルタ−(青フィルタ-)以外の全てのフィルタ−を外し、副屈折を観察した状態。標本は骨肉腫の類骨。

LDBフィルタ−も外して複屈折を観察した状態。

ステ−ジを45度回した状態

偏光レンズを使用する場合にもコントロ−ルがほしくなる。スライドに示すように呼吸器の標本にはシリカやパウダ−の粒子が多数混在し、これらは常時強い複屈折を示す。従ってこれらが複屈折を示し、問題とした細胞が複屈折を示さないからといって容易にその細胞が複屈折を示さないと判断してはいけない。先に述べた方法に従い正確に検討する必要がある。